犬山の鳥
早々に水田の畦道でけたたましく鳴くケリに度肝をぬかれ、夜でも騒いだり飛んだりするのには、更にびっくりした。ここはまだけっこう田舎である。
犬山市(愛知県)は、日本唯一の私有物である国宝の城をもつ城下町で、街並みには古い時代を感じさせる趣がある。北側の各務原市(岐阜県)との境界は木曽川で、冬にはカンムリカイツブリやミコアイサ、そのほか多数のカモ類が群がっている。このあたりには人口の割には不釣合いとしか思えない多くの和菓子屋があり、– おっと、美味な栗きんとんの話をする場ではなかった。
私たちの住まいは、演習林の一角に建てられた職員宿舎という名の5階建てのあばら家の3階にある。真夏にはエアコンがなければさすがに生きていられないが、林に囲まれているため、周囲より気温が2〜3度低く、夏でも涼しい風が吹く。とくに蒸し暑い日の夕方には水蒸気がたちこめ、白く幻想的な風景が出現する。窓のすぐ近くまでコナラやアベマキが太い枝を伸ばしており、木々の間を飛ぶカラ類やメジロ、コゲラなどの背中を見ることもできる。ベランダの洗濯物の中にはアブラゼミやカメムシが紛れ込む。北側に農業用水のため池が2つあるため、いろいろな野山の鳥と水辺の鳥に出会える。キジの姿を眺めながら朝食をとったり、カイツブリの鳴き声を聞きながらそろそろ寝るか、という夜もあった。ただし、梅雨時から夏場は高湿度のために屋内は悲惨な状態で、箪笥に吸湿剤と防虫剤を入れ忘れると大変なことになる。冬も悲惨で、断熱材とは無縁の壁を通して関ヶ原を吹きぬけてきた冷気が侵入するので、北側の内壁は結露し、室内はなまら寒くなる。さらに春から秋まではムカデがやたらと多い。この間は大発生し、部屋の中だけで1日に20匹退治した。そういうのがなければ、よい住環境なのだが。
当初は札幌とは季節が逆の鳥が多く戸惑った。たとえばハクセキレイ、モズ、アオジなどは冬に見られる。西岡水源池からの使者のようで懐かしい。カワセミやケリ、キジ、キジバト、オオタカは一年中見られる。冬には、ジョウビタキ、シロハラ、ルリビタキなど。シロハラは冬中、家の周りの落ち葉をガサゴソとかき回していて、1メートルくらいに近づくと慌てて逃げ出す。この春にはノゴマを見て感激した。北海道に渡るのだろうなぁ…。
ため池ではカイツブリが今年は無事繁殖した。成鳥2羽と幼鳥3羽を秋のある日に同時に観察したので、まず間違いない。同じ日にカワセミの親子らしい2羽連れも見た。カワセミがコンクリートの平面にべたっと座るようにとまると、長いドレスを引きずっているようで、いかに不恰好なものか。笑ってしまった。
池の周囲では釣り人をよく見かける。それにしても、なぜ釣り人にはゴミを残して平然としていられる人が多いのだろうか。切れた釣り糸をそのまま放置するだけではなく、空き缶やペットボトル、コンビニ弁当のかすなどなど、わざわざ捨てに来ているとしか思えないほどだ。この次もまた釣りにくる気があるのだろうから、ごみの中で釣りをすることが彼らには苦痛ではないのだろう。そういえば山菜取りにも似たことをする人が多いような気がする。まるで自然から持ち出すバイオマスに見合ったごみを残して帰らなければいけないと振る舞っているかのようで、この上なくたちが悪い。
だが、今年は釣り人が減ったようだ。昨年12月に犬山市の音頭で有志が集まり、ふたつの池から水を完全にかい出して外来魚を駆除し、ブラックバスがいなくなったせいだろう。この魚が増えるとカイツブリが住めなくなるという話を読んだことがあるの、久しぶりの今年の繁殖成功も関係があるのかもしれない。ついでに大量のごみをさらったので、少しは景色がきれいになった。さいわいなことに、その後のごみの増え方はまだそれほどではない。もうすぐカモたちが、冬越しのためにここにも沢山やってくるはずである。
