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Sapporo Chapter of Wild Bird Society of Japan

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トンボ相から見た、西岡水源池の変遷

北海道トンボ研究会 事務局長  平塚和弘

私が西岡水源池のトンボを観察し始めてから、いつのまにか20年もの歳月が流れた。これまでの調査活動から得られた成果も大変多く、中でも今なお「単一湖沼としての種類数、全道一」は、都市化の波の著しい札幌市にあって全国に誇りうる事実と思う。

これだけ種類数(2004年段階で記録種数は43種に上る)を支えていける要因は、何よりも変化に富んだ水源池の環境にある。
トンボの生息には充分すぎるほどの面積を持った池を中心として、奥には葦原の広がる湿地帯がトンボたちをやさしく迎えてくれている。
水源池に流れ込み、そして流れ出る月寒川は、流水性のトンボの貴重な生活圏。また水源池に点在する小さな開放水面は、そのまま小池を好むトンボの生息地として利用され、林が作る木陰は日陰を好むトンボの貴重な生活圏となっている。更に水源池に隣接する森林は、羽化後間もないトンボたちが成熟するまでの貴重な生活空間そのものである。

今から3年前、日本蜻蛉学会に報告された企画のひとつで、「全国の河川のトンボ相の変化」の一斉調査が行われた。
「特定の河川のトンボを10年以上観察し続けている方へのアンケート」ということで私は、ここ月寒川の変遷を報告したのであるが、20年前と比べても際立った変化は見られず、「特に変化なし」という文ばかりが続く非常につまらない報告になった。ところが、全国の報告を見て、びっくり。これがいかに貴重な報告であったかを思い知らされたのである。
現在、いかに人々の関心が自然保護に向き、いかにビオトープがもてはやされようと、自然は決して大切に扱われてはいない。「増加」とか「微増」といった報告は皆無。「わずかに減少」などはいいほうで「激減」という言葉どころか「絶滅」という言葉も珍しくない状態である。
「変化なし」を報告したのは、全国でここ月寒川だけという状況である。月寒川のトンボたちは20年以上も大きな変化無しに生活し続けてきたのである。

西岡には、行政にものを言う形がある。そして行政の自然への配慮の動きも出てきた。西岡水源池は、全国でも稀有な、昔からの自然の残る地域なのである。もちろん、充分といえるレベルではない。が、ここを足がかりに、「人工的に作ったビオトープ」ではない、以前からある自然を大切に残していくためのモデルとはなりえないか。そんなことも考える全国報告の結果であった。

河川のトンボは変化なしと申し上げたが、実は本湖とも言うべき池の方は決してそうは言えない。
中でも、北海道では貴重な存在であったオオヤマトンボの減少は著しいものがある。岸辺すれすれを豪快に飛翔するオオヤマトンボは、岸辺の鴨たちにとっては格好のえさとなる。オオヤマトンボ減少の原因は鴨にあるという人もいるくらいである。

水源池の岸辺の鴨は、公園を訪れた市民たちがパンやお菓子を与えている鳥。野鳥の会が自然に配慮してコントロールして作られた餌場の鳥とは当然異った存在である。
何も考えず、単に食べてくれて嬉しいとか可愛いとかで与えるえさは結局は生態系そのものを滅ぼすのではないか。そんなことを考えさせられるオオヤマトンボの減少ではある。

残したいのは生態系そのもの。オオヤマトンボと鴨とどっちが大事という問題ではないし、私たちの調査で見落としている環境の変化も、もちろんあるかもしれない。
食物連鎖の過程では、もちろんトンボは鳥に食べられる存在である。「鴨よトンボを食うな」などとバカなことを言うつもりはない。
しかし、いつまでも鴨もトンボも共に共存していける西岡水源池であるために、あらためて「生態系の保存とは何か」を考えてみたいものである。

支部報「カッコウ」2004年11月号より