*

Sapporo Chapter of Wild Bird Society of Japan

Home

ミツバチ、たまに鳥

オホーツク支部会員 関養蜂場 関 高史

5年間勤めた知床のネイチャーガイドから転身、養蜂家になりました。網走のひよっこ養蜂家から「身近なようで身近でない」ミツバチと蜂飼いの生活について、少しご紹介したいと思います。

鳥を探してウロウロしていたら、蜂の巣箱が並んでいて驚いた経験がある方もいるかもしれません。スズメバチと違い、命にかかわることは少ないにしろ、ミツバチも蜂のうち、問題を起こさないように、人目につきにくい場所で飼われていることが多いのです。さらに、ミツバチの生物としての特殊性も、ミツバチへの不思議を増しています。飛び回るミツバチは、それ一匹では生きてゆけません。一匹の女王蜂に、たくさんの働き蜂(実際には雄蜂もかなりの数いますが)からなる一群が、生物として継続する最小単位になります。こうした「超個体」的な性質が、ミツバチを、他の虫とやや違う印象にしているのかもしれません。
さて、これも意外に感じる方がいるかもしれませんが、僕らの飼育しているミツバチは、家畜です。はるか昔、どこか西洋で人に飼われるようになって以来、ずっと人間と共に暮らしてきた一族の末裔なのです。そして僕ら蜂飼いの仕事も、その頃からほとんど変わっていません。単純に言うと、この蜂たちが快適に暮らせるように、お世話をすることです。定期的に巣箱を覗いては、ご機嫌をうかがい、必要な手入れをしてあげます。蜂たちは巣箱を中心に数キロを自由に飛び回り、蜜と花粉を集めます。
大昔より、自然の中で続けられてきた人間とミツバチの生活、と聞くと、なんだか牧歌的に感じられます。ミツバチに理想的な自然豊かな場所、そんな場所でのんびり鳥を見られたら最高、なのですが、実際はなかなかそうもいきません。ずらりと並んだ巣箱を一つ一つ点検するとなると、鳥を見ている余裕はありません。もっとも、そこは網走、初夏は賑やかです。ビンズイにベニマシコ、クロツグミ、アカハラのさえずり、オオジシギのディスプレイを耳だけで楽しみながらの仕事になります。

もともと温暖な地域出身のミツバチにとって、冬越しは試練です。スズメバチの場合、秋に生まれた翌年の女王蜂が、単独で冬眠します。しかし、ミツバチに冬眠はありません。コロニー全体が、「おしくらまんじゅう」状態で最低限の温度を保ち、モゾモゾとしてすごします。当然、その分食料も消費します。そこで、まだ気温が高く、蜂たちが活動できる9月のうちに、春までの食料を貯蔵させるべく、大量の砂糖水を与えます。おりしもヒシクイが渡ってくる季節、能取湖や網走湖周辺の畑には、渡り途中のひと時を過ごすガンの群れが、油断のない視線を送ってきます。やがてやってくるオオハクチョウも横目で見ながら、ひたすら砂糖を溶かし、給餌に奔走する日が続きます。網走湖には、徐々にカモの姿も増えてきます。やがて、初雪のころ、ミツバチの巣箱はひっそりと静まりかえります。

天候や環境が、生活に直結していると「自然を楽しむ」感覚は、つい忘れがちになります。しかし、短い花の季節に得られた一瓶のハチミツは、いったいどれだけの花を、ミツバチがまわった結果なのでしょう?ビンに詰まったハチミツを眺めながら、自分の仕事ながら、不思議に思うことがあります。そんな自然からの恵みを、社会につなげてゆく、そうした仕事でありたいと思っています。

ミツバチは今、静岡県の天城山中で冬越ししています。ヤナギの花が咲く4月末には、再び網走に帰ってきます。新しい巣箱作りとハチミツのビン詰めに追われる毎日、次の探鳥会には、出かけてみようかな。

支部報「カッコウ」2010年1月号より