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Sapporo Chapter of Wild Bird Society of Japan

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野鳥さえずり録音

花田 行博

日本の野鳥録音家で有名な人は蒲谷鶴彦さん、上田秀雄さん、織田敏雄さんがいる。
いずれもこの方とは面識があり、会うと鳥の話でいつの間にか時間が過ぎてしまう。
特に織田さんとは同じ支部会員であり、よく電話で鳥のことを聞いたり、情報を教えてもらったり、ときには酒を酌み交わしながら鳥談義をする。
私はここ何年もギンザンマシコとカワガラスの冬のさえずりを追っかけている。ギンザンマシコの冬の鳴き声は「ヒュルリン、ヒュルリン」と澄み切ったきれいな声で夏のさえずりとは違う。
カワガラスについては厳冬期の1月、2月、3月にしかさえずらないのだと思っていた。しかし4月5月の暖かくなってからでもさえずるとの情報も得ていた。
また11月、12月になればさえずるとの話も聞いた。「二兎追う者は一兎も得ず」のことわざ通り、一冬にギンザンマシコとカワガラス両方を追うのは不可能とわかった。
まだ働いている身である以上休日しか録音することができない。たとえ休日であっても風が吹いたり、吹雪であったら録音はダメである。
そんな思いから今年は、冬はカワガラス、夏はギンザンマシコの録音と決めそれらが録れたら次へ進めることにした。

私は足が衰えない元気な内に、多くの山を登りどこの山にはどんな鳥がいたか声で記録に残したく今年は6月7月の二ヶ月間に8回大雪山系の山に登った。
特に登りやすい旭岳には3回行った。行ったといっても、ロープウエイで登るため、たいした体力消耗にはならない。

7月初旬、旭岳姿見の駅から約2キロ裾野平ら方面に歩いたところにギンザンマシコを見つけた。
そのさえずりを録音したがギンザンマシコの口のパクパクがまったく合っていない。
見つけたギンザンマシコではなく違うギンザンマシコがさえずっているのかも知れない。それにしてもノビタキのようなさえずりだなとの印象であった。
とにかく録音成功である。録音したときギンザンマシコの口のパクパクが合っていないので間違いなくギンザンマシコのさえずりかか不安であった。

大雪山でギンザンマシコに標識調査をしている旭川の磯さんにこの声を聞いてもらった。磯さん曰く「この声はギンザンマシコではない」。ええ何の声。
札幌の織田さんにも聞いてもらった。もしかしたらギンザンマシコのメスの声かも知れないよ。いずれにしても帰ってからゆっくりと聞きますとのこと。
私は織田さんからの結果を聞いてから連絡すればいいものを、さっそく磯さんに電話でギンザンマシコのメスかも知れないよと伝えた。
磯さんはヨーロッパとアメリカのギンザンマシコの声を引っ張り出しそれをソナグラムにかけ検証して下された。電話で「似ている声の部分は少しあるね、やっぱりギンザンマシコのメスなのだろうか?」
それから2日後、織田さんから「ノビタキではないだろうか。ノビタキにすごく似ている」との連絡があった。
そういえばずいぶんノビタキの声に似たさえずりのギンザンマシコがいるもんだと思ったことが思い出された。また磯さんに電話する。
数日後、磯さんからの電話で「ノビタキのソナグラムにかけたところまったく一致した」との連絡があった。
最初からこんな高山にノビタキは居ないとの思いこみからはじまり、口のパクパクとは合っていないが、そばにギンザンマシコのオスがいた事からの誤解の始まりであった。
それにしてもこの声をノビタキと判定した織田さんはすごい人だ。
この声が平地の草原で録られていれば私でもノビタキと判定できたかも知れない。しかし録った場所がハイ松帯で、草原はわずかにしか見あたらない場所である。
織田さんにすごい耳を持っているねと話したところ、いや俺よりまだすごい人がいたよ。もう亡くなったがどんな声でも聞いただけで鳥の種類をわかった人がいたと聞かされた。
それも日本の鳥ばかりでなく世界中の鳥だとのことだった。世の中にそんな人がいたんだ。上には上がいるんだ。つくづくそんな思いをした次第である。

支部報「カッコウ」2006年12月号より