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Sapporo Chapter of Wild Bird Society of Japan

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ヘビを通して自然を観る

円山動物園 爬虫類館 本田直也

ここは円山動物園内のとある場所。
廃材や剪定された木々、落ち葉、ブロックなどが数箇所に分かれ積まれている。
ここは所謂「ゴミ置き場」。このような山に面した「人工物」はヘビの恰好の棲家となる。陽当たり良好、隠れ場多数、餌のネズミ達も多く集まってくる。繁殖や冬眠もこの場所で行い、大きな移動をすることもない。ここは年間を通して彼らの営みを存分に観察できる貴重な場所なのである。
今回はここで暮らすアオダイショウの1年を紹介していきたい。

4月中旬から下旬、最高気温15度を超える日が5日も続くと彼らの活動が始まる。
まだ個体数は少ないが、冬眠明けで動きは非常に鈍くヘビを最も間近で観察できる時である。
この時期は体温調節のため多くの時間を日光浴に費やしているため、午前午後問わず1日中観察することができる。

5月上旬に入ると個体数はピークに達し求愛行動も開始される。この時期、♀に対しての激しい追尾があちこちで観察される。
しかしこのような状態は相性やタイミングがあっていない証拠で、大抵は失敗に終わる。相性、タイミングが合えばこのような激しい追尾は見られず、交尾はいたって静かにスムーズに成立する。
交尾時間は数時間から長くて丸1日。この時期の♂はまさに必死、移動中の♂を多数観察できるがそのほとんどは痩せている。きっと餌も捕らずに♀探しにエネルギーを費やしているのだろう。「食い気より色気」そんな心境だろうか。

6月も中旬に入ると気温の上昇にともないヘビ達の行動にも変化が見られる。
♂は日中の暑い時間帯を避け朝方と夕方に活動するようになるが、♀は突如沸いてきたように日中日光浴に現れるのだ。これは腹に持った卵を温めるためで、また紫外線を多く浴びる事で卵殻の形成も促進させていると思われる。
日中に観察できるのは9割方♀でどの個体も胴が太く、また非常に警戒心が強くなっていることからも産卵が近いことが想像できる。

7月に入ると産卵が開始され、♀達は一斉に姿を消す。産卵場所は落ち葉と腐葉土が堆積した場所、陽当たりは悪いが発酵熱により温度と湿度は安定している。他種のヘビ達もここに集団で産卵していることから、よほど好条件なのであろう。
孵化は8月中旬から9月上旬にかけて起こる。この7、8月の暑い時期はヘビ達の活動も鈍り、活動時間は早朝のみになる事も多く日中はほとんど姿を見せない。
再び活動が活発になるのは9月に入ってからで、秋はエネルギーを貯め込む重要な時期である。

そして10月、ヘビ達は再び姿を見せなくなる。すでに彼らの生理は冬眠モードに切り替わっていて、この時期は捕食せずに排泄だけを行い消化器官の内容物を空にする。これは冬眠中に内容物が腐敗することを防ぐためで、安全な冬眠には不可欠な行為である。
そして11月、長い冬眠へと入っていく。冬眠中は体温、代謝ともに低下しているためエネルギーの消耗は少ない。それは冬眠明けの個体がそれほど痩せていないことからも推測できる。
そのことからも秋に貯めたエネルギーは「冬眠を乗り切るため」よりも「翌年の繁殖に向けて」の方がはるかに比重が大きいと思われる。

ヘビは効率良くエネルギーを貯め、それを利用して生きている。そこに無駄は一切ない。季節ごとに変化する行動や体型、またその時々の生理状態など、ヘビに限らず野生動物達はまさに自然環境の一部でありまた要素の一つであることを強く感じる。
生息地の中で長い年月をかけて進化適応してきた存在は、その環境の中でしか正しい生活サイクルを構築することはできない。

ヘビを通して学んだ数多くの事柄は飼育を生業とする著者にとってこの先も最も大切な宝となっていくであろう。いつまでもここのヘビ達が幸せに暮らせる環境が残って欲しい。
それが今の願いである。

支部報「カッコウ」2005年11月号より