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Sapporo Chapter of Wild Bird Society of Japan

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バードウォッチングと臨床遺伝学

静岡県立こども病院遺伝染色体科医長 
石切山 敏(いしきりやま さとし)

突然住友女史から電話があり、すわ愛の告白かと思いきや30数年来の支部会員だから鳥参上の原稿を書けとのことであった。そろそろ人生の総括をしろとの意と解した。

振り返れば、「ブラキストン線を越えてやろう」と北大医学部に入学してからはや40年が過ぎ、まさに「少年老い易く学なり難し」と痛感するこの頃である。

雪国に対する憧れもあった。故郷の静岡は那覇を除けば県庁所在地で最も積雪が少なく小学校には雪見旅行なる年中行事があり、私も初めて雪に触れたのは富士山麓での雪見であった。静岡は典型的な太平洋側気候で冬は晴天が続き富士山や南アルプス連峰が望める。ほぼ毎日雪を見ることはできるのだが、数十キロ彼方の三千m峰に輝く白銀は憧憬を掻き立てても癒してはくれない。もっとも札幌での二年目は初雪よりも初雨のほうが感動的であったが。

純粋な生物学では食えないと日和って応用生物学たる医学を選んだはずなのに、結局臨床遺伝学(臨床奇形学)という基礎医学とも臨床医学ともつかない中途半端な道を歩んできたが、自然な成り行きだった様な気もする。
臨床遺伝学のある総説に「多くの人々が臨床遺伝科医はバードウォッチャーだと思っている。バードウォチャーは見ているだけで何もしないが、臨床遺伝科医は違う」とあり、苦笑させられた。
臨床遺伝学の業界誌(American Journal of Medical Genetics)にR. M. Goodmanという臨床遺伝学者の追悼文が載っていて彼の業績として「ピーターソンフィールドガイド風の図譜を著した」とあった。この文章を理解できる日本人は私ぐらいだろうと、ほくそ笑んだのだった。
THE MALFORMED INFANT AND CHILDもPETERSON FIELD GUIDEも見開きの左半分にイラスト右半分に簡単な記述がある。患児ないし鳥と図譜を見比べて同定する仕組みで、まったく同形式である。(写真参照)常々思うのだが、臨床遺伝科医の養成には医学部で適格者を探すより野鳥の会会員を医学部に入れた方が確実な気がする。
もっとも、臨床遺伝科医の需要などほとんどないのだが。

思えば、シマエナガ・クマゲラ・ミヤコドリ・セイタカシギ・ノドアカハチドリ・アカフウキンチョウ・サンコウチョウ・ヒメアマツバメなど、札幌市から千葉県・米連邦・静岡県と渡り歩いてきた私の税金泥棒人生を様々な鳥たちが彩ってきた。
定年も視野に入ってきたので、今後は台湾・東南アジア・大洋州と南下を目論んでいる。南極にも鳥は住んでいる。退職後も暇を持て余すことはなさそうだ。

支部報「カッコウ」2011年5月号より