「これではとべない」愛鳥週間切手が明かした羽の秘密
●昭和46年(1971)愛鳥週間に因んだ記念切手が発行された。シジュウカラの親が巣箱から口を突き出しているヒナへ餌を運び、羽を広げてまさに空中で静止している図柄である。(写真)

この切手を見た愛知県春日井市の鷹匠、丹羽有得さん(70)がシジュウカラの右翼の風切羽の重なりが通常の様子と違う事に気が付いた。その間の事情が同年5月14日の北海道新聞紙上で「これではとべない」と紹介された。
丹羽さんによると、大きく羽ばたいているシジュウカラの左右の翼のうち、右の翼(切手では手前)の羽の重なり方が逆になっている。これだときりもみ状態で墜落は必至という。
「この初列風切羽(しょれつかざきりばね)と次列風切羽の重なりぐあいは、第1羽(外側へ広がる一番大きな羽)が第2羽の下へ、第2羽は第3羽の下へと順次重なるのが正しい」。やや複雑な説明なので紙面では図解されていたが、ここではよろしく皆さんご自身でイメージしてほしい。
この指摘に対して原画を担当した技芸官が答えている。記事によると「もちろん実物を見て正しい絵を描くように心がけているが、芸術家としては、むしろはっきり描かぬこともあり、切手の絵は図鑑とは違うことを理解して欲しい」というものだった。私は鷹匠の指摘が正しいと思い、郵政省の言い分には少なからぬ違和感をもったものだった。
もちろん技芸官たちもいい加減な仕事をしていたわけではなかった。日本鳥類保護連盟から借りた写真で同省のデザイナーが原画を描き、さらに同連盟の考証を得て、正しいと信じて発行した切手だった。だが左右の翼の羽の重なりが違っている理由にまでは気が回らなかったようだ。
●後日、私は林大作氏の野鳥写真展を見に行き思わず目を見張った。林氏は1992年に若くして他界した地元の動物写真家だが、全国的に彼の写真は知られていた。大きく羽ばたくヒヨドリの大画面の左右の翼の羽の重なりが見事に「これではとべない」状態で写し止められていた。
これで合点がいったものだった。鷹匠は日常の観察から翼を構成する羽の重なり方は、飛行中も変わらないという認識だった。ところが、急に方向を変えるとか微妙な角度で急停止するような場合には、翼の片方か両方か「これではとべない」羽の重なりになる事実をカメラが捉えていたのだ。
鳥の羽の形は、拾った羽を見ても羽軸に添って両方に羽弁が伸びている。風切羽の場合は尾羽と違って羽軸から前後に伸びる羽弁の寸法が同じにはなっていない。切手のシジュウカラも羽軸をねじるなどして、羽の重なりを瞬時に変えて、風を逃がしたり受け止めたりダイナミックに姿勢をコントロールするのかと思う。
数千分の一秒の世界を捉えた鳥の羽の不思議な世界が、愛鳥週間の切手をとおして強く印象付けられたものだった。
支部報「カッコウ」2008年4月号より
