北海道ボランティア・レンジャー協議会 副会長 五十嵐一夫
2月の下旬、庭の冬囲いの竹の先にボケりんごを刺してみた。2日後にヒヨドリが来た。3羽くらいで取り合いをしている。どうも食べ方が下手くそで、半分くらい食べたところで、下に落ちてしまう。こうなるともうお手上げ状態、深雪の中に埋まってしまう。春に茶色くなってつぶれて出てくるだろう。
我が妻はせっせと家の中でボケりんごの制作に励んでいる。何のことはない、私に食べさせるのがよほど嫌なのか、涼しいところに放置すること1,2ヶ月。りんごは表面の張りが消えうせ、皺がよって、まるで制作者そのもののボケりんごが出来上がる。そのまま捨てるのもどうかと思い、かといってえさ台を作るのも面倒くさいので、冬囲いの竹に突き刺すことにした。
ヒヨドリの食事は最初から最後までうるさい。ピーヨピーヨとやってくるからすぐわかる。おまけにポジションの奪い合いが始まる。ボケりんごがそんなに美味いのか。お前らあんまりグルメじゃないな。ピーヨピーヨとうるさいし、協調性はないし、見た目は地味なのに自己主張が強そうだし、巷の奥様たちに似たタイプだなぁ。
今は亡き、林大作さんの写真集『北海道の野鳥』では、ヒヨドリについて「地味ながらいまや知名度と好感度ではナンバーワンである」とキャプションが入っている。好感度ってほんとかー、信じられない。信じたくない。職業にも野鳥にも貴賎はないと分っちゃいるけど、納得いかねー。
そんなある日の朝、別の鳥が来た。「ヒヨちゃんよりきれいだね」。「んー、確かにヒヨよりは色が多いな、顔は怖いけど」。キレンジャクが一羽でやってきて、一心不乱にボケりんごをつついている。おまけに食べながら私のほうに尻を向けポロリと糞までする始末。食ったらすぐ出す。どうやら便秘とは無縁の体質らしい。私も朝食の最中だったのに、変なものを見てしまった。なかなかの食欲で30分ほど食べ続けていたところへ・・・来たっ。「ピーヨ ピーヨ ピヨ」「どけどけー、オレ様のボケりんごじゃー」。哀れキレンジャク、顔の怖さなどヒヨちゃんにとっては、まったく通用しない。体格と性格の差は如何ともしがたい。あっという間に蹴散らされ、と思いきや、なかなかしぶとい。隣のボケりんごに場所換えして朝食の続き。ところが、「どけどけどけー。こっちのボケりんごもオレ様のものじゃー」。いやはや、なんともご立派な性格。こんなやり取りが3回ほど。奪い返したボケりんごを食べるのかと思ったら、どこかへ飛んでいってしまった。そんなに腹は減っていなかったらしい。それなら食わせてやれよ。譲り合いの慈悲の心まったくなし。独占欲は最大レベル。やっぱりデパートのワゴンセールで見かける奥様たちにそっくりだなぁ。
「今日はまた別の鳥が来ていたわ」。「大きさは、色は、鳴き声は?」どうやらムクドリらしい。確かに食い物が一番少ない時期ではあるけれど、ボケりんごってそんなに美味しいのかぁ。ヒヨドリとキレンジャクとムクドリの三つ巴のバトルを見てみたい気もする。顔の怖さでは断然キレンジャクが有利。体格のよさではムクドリが一歩リード。でもやたらにでかい声と強烈な性格でヒヨちゃんの圧勝だろうなぁ。
今朝カーテンを開けてみると、りんごが下に落ちている。「またりんご買ってこなきゃ」と妻の無邪気な一言。オイオイ、俺にも少しは食わせろよな。
支部報「カッコウ」2004年4月号より